10. タイ(バンコク)

Mr. Rithika Suparat

バンコクにおける交通事情

 

目 次 

1.はじめに
2.バンコクの背景
3.バンコクの都市交通
4.現在の交通問題
5.将来の交通インフラ開発計画

 


1.はじめに

 交通は都市の日常生活において最も重要な活動と考えられている。交通問題は、先進国、発展途上国を問わず、ほとんどの主要都市で発生している。交通問題の原因と特徴は、都市開発や経済発展の度合い、インフラの供給、移動の特徴、法規制など様々な要素により、似通っている場合も、異なっている場合もある。

  バンコクは深刻な交通渋滞とその関連問題、特に大気汚染と騒音に直面する大都市の一つである。この問題の主たる原因としては、不適切な空間開発、急速な都市化の進展、交通インフラ、特に公共交通インフラの不足、法律の不適切な適用などが挙げられる。本報告書では、都市開発、既存の輸送交通事情、交通インフラ整備計画の説明と概観を行う。

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2.バンコクの背景

 2.1 バンコクの概略

  バンコクはタイの首都として1782年に建設された。バンコクはチャオ プラヤ川の両岸の低平地に位置し、面積は1,569km2、人口は560万人である。バンコクとその他の5つの都市がバンコク首都圏(BMR)を形成し、その面積は7,760km2、人口は910万人である。バンコクとBMRの行政地域を、図1に示す。

  バンコクは、国の産業・商業・教育・行政・政治活動の中心地である。バンコクの経済は中小産業やサービス業に依存している。BMRは国民総生産のおよそ3分の1を産みだしている。1996年のバンコクの1人あたりの地域総生産(GRP)は、全国平均の3倍以上にあたる6,000米ドルに達した。

2.2 都市開発

  開発の初期段階では、バンコクの市街地は宮殿を囲む地域と、水路を主要交通手段とする運河や河川に沿って広がった。しかし20世紀に入り、市街地は道路網が整備された地域にシフトし始めた。20世紀後半、特に1960年代以降のインフラ投資の大部分は、人口の流入を促進し、開発用空間の需要を増大させた。市街地は急速に広がり、近郊都市に拡大し続けた。バンコクは現在、郊外都市化の段階にある。

 土地利用規制の欠如、鉄道インフラの不足、生活道路の不適切な整備、リボン状に広がる開発、郊外地域の不規則な広がりといった要素が、バンコクの空間開発の特色を織りなしている。このような市街地の非効率な開発と急速な発展がインフラの供給を難しくし、交通渋滞を含む都市問題の多くの原因となっている。バンコクにおける市街地の変化を、図2に示した。 

 現在、バンコクの道路の全長はおよそ4,000kmで、その4分の1が幹線道路、残りが幅の狭い小道(ソイ)である。バンコクの道路占有比率はおよそ2.5%である。市内での割合はおよそ8.5%だが、市外では2%に過ぎない。この道路供給水準は、他の大都市の20〜25%という道路占有率と比べると、かなり低いものである。図3は、バンコクの既存道路網を示したものである。

 1981年に、バンコク初の高速道路が開業した。現在、高速道路の全長はおよそ133kmである。高速道路の運営は、政府と民間部門の双方が担っている。表1は、管理者別高速道路の全長を示したものである。

表1 既存高速道路の全長と運営者

プロジェクト名

全長(km)

管理者

第一段階高速道路 27.1 ETA
第二段階高速道路 31.8 民間
Narong 〜 Ramindra高速道路 18.7 ETA
Chaeng Watana 〜 Bang Poon 〜 Bang Sai 34.0 民間
Don Muang有料道路 22.0 民間

合計

133.0  

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3.1.2 鉄道

  バンコクへの鉄道の導入は、1893年から始まった。最初の鉄道は、首都と港湾口のSamut Prakarnとのアクセスを高める目的で民間により建設された。1890年には、鉄道開発を担当するタイ国営鉄道が設立された。それ以降、バンコク市内の移動のためではなく、バンコクと他の都市とを結ぶために、数多くの鉄道が建設された。

  現在バンコクの鉄道路線は4本に過ぎず、全長は140kmである。これらの路線は、それぞれが行き止まりになっており、ネットワークを形成していない。供給不足と貧弱なネットワークが災いして、都市交通における鉄道の割合は1%未満に留まっている。

 

3.1.3 大量高速輸送

  バンコクにおける鉄道大量輸送システムは、ドイツ人アドバイザーが1971年から1975年に実施した、いわゆる『バンコク交通調査』で提唱された。この調査では、全長100kmの大量輸送網のうちおよそ50kmを1980年までに建設するよう提言している。しかし、財政的・政治的な問題から、この輸送網の建設は遅れている。

 1988年から1990年の間に、民間の2人の投資家が、Tanayongプロジェクト(バンコク首都圏行政局、BMAが管轄)とホープウェル プロジェクト(タイ国営鉄道が管轄)という、2件の高架式大量高速輸送プロジェクトの建設を提案した。この2つのプロジェクトの輸送網は、『バンコク輸送調査』が提言した大量輸送網には含まれていないが、計画済みの輸送網に匹敵するものである。そのため、提案された輸送網と適合するように計画済みの輸送網を修正する必要がある。Tanayongプロジェクトやホープウェル プロジェクトと接続してバンコクの大量輸送システムの中核輸送網を形成するために、第一期システム プロジェクト(ISP)と呼ばれる全長20kmの大量輸送路線の提言が行われた。

  1992年には、ISPとバンコクおよびその隣接地域における大量高速輸送システムの実施を担当する国営企業として、首都高速輸送公社(MRTA)が設立された。ISPは当初は高架システムとして設計されたにもかかわらず、環境に対する配慮が増加したことから、内閣はこれを地下鉄システム プロジェクトとすることを決定した。その結果、ISPはタイにおける最初の地下鉄となることになった。

  内閣は1994年に、地上輸送管理委員会事務局(OCMLT)が提案した全長238kmの大規模鉄道大量輸送網(図3参照)の総合基本計画を了承した。この基本計画は上述の3つのプロジェクト(ブルー線・グリーン線・レッド線)と、これらの路線の拡張線と新設の2路線(オレンジ線・パープル線)から構成される。

 現在、Tanayongプロジェクトの工事はほぼ完成している。このシステムは、今年末までに開業の予定である。開業すれば、タイにおける最初の大量高速輸送となる。その一方で、最初の地下鉄であるISPは、現在建設中である。ISPの開業は2002年を見込んでいる。民間が全額を投資したTanayongプロジェクトとは異なり、ISPの公共工事は政府が資金を提供しており、その一方でE&Mの工事は、このシステムを25年間運営する予定の営業権所有者が資金供給を行う予定である。ホープウェル プロジェクトにとって不幸なことに、工事の進展が計画から大幅に遅れたため、コンセション契約は1998年に終了してしまった。政府は現在、このプロジェクトを適切に実施するための方策を検討中である。

 3.2 移動のパターン

 バンコク首都圏(BMR)では、1日2,130万トリップの移動が発生している。うち240万人は徒歩によるトリップである。図5は、BMRにおける交通手段の内訳を示したものである。バンコクにおける総トリップの50%は自家用車によるものである。交通渋滞は深刻化し主要道路の多くではラッシュ時の移動速度が時速10kmを下回っているが、それでも個人交通手段の比率は年々上昇している。図6に示すように、バンコクの登録車両台数は、1980年から1987年の間にほぼ倍増した。経済発展と貧弱な公共交通が、このような自動車所有の急速な増加をもたらした。

 図7に示すように、バンコクにおける公共交通の主役はバスである。公共交通のおよそ95%はバスが担っており、鉄道の割合は2%に過ぎない。バンコクにおけるバスの運行は、バンコク大量輸送局(BMTA)が担当している。現在、BMTAはおよそ4,050台のバスで136の路線を運行しており、民間会社は3,340台のバスと2,370台の小型バスを運行している。これに加え、40の非合法のバン バス路線が、民間により運営されている。

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4.現在の交通問題

 バンコクの交通問題を考える上での重要な課題は、交通渋滞・環境問題・制度上の問題の3分野に分けることができる。

4.1 交通渋滞

 交通渋滞は、ここ数10年来バンコクの大問題の一つとなっている。主要道路におけるラッシュ時の走行速度は、時速10kmを下回っている。交通渋滞による直接的な経済損失(移動時間や車両運行費用面など)は、年間40億米ドルを上回ると推計される。この問題の主たる原因は以下の通りである。

 不十分な道路空間:上述のように、バンコクの道路占有率は他の大都市の10〜20%と比べ、わずか2.5%である。道路の供給水準が低いのは、投資予算が効率よくふり向けられていないことが原因である。1970年代から1980年代にかけて、バンコクのインフラ投資に向けられた予算は、総生産のわずか0.5〜1.0%であった。その上、予算と経済発展がかみあっていない。例えば、1984年から1988のバンコクの生産高はおよそ2倍に増加したが、インフラ投資額は増えなかった。しかし最近では、交通インフラへの投資額は大幅に増加している。

 貧弱な道路網:バンコクの道路整備は計画性がないままに行われてきた。道路の階層分けが行われていないことに加え、一般道路が不十分なため、道路網の効率を損なっている。こういった計画性のない整備と無軌道なアクセスにより幹線道路に交通が集中し、これがさらに交通渋滞を悪化させている。

 効率よい公共交通の欠如:大量高速輸送網が存在しないことに加え、バスを交通渋滞から守る施策が不足していることが自家用車の利用率を上昇させている。バス サービスの質は大幅に改善されつつあるものの、信頼性が低く移動時間も長いため、自家用交通と競合するのは依然として不可能である。自家用車の利用を抑制し、あわせて交通渋滞を緩和する手段として、大量高速輸送システムが検討されている。

 不適切な開発規制:バンコクは、開発規制があまりないままに建設された。土地利用制限が行われていないためリボン状の開発が進み、都市部はバンコク地域全体に不規則に拡大している。これがインフラの供給を難しくし、移動時間が延びる結果となっている。

 30年以上遅れて、ようやく『バンコク総合計画』と呼ばれる最初の開発計画が1992年に打ち出された。この計画はバンコク地域の土地利用開発のガイドラインを定めると共に、開発規制を行うものである。この総合計画は、現在修正中である。

 

4.2 環境問題

4.2.1 大気汚染

 バンコクの大気汚染と騒音の主たる原因は、道路交通である。公害規制省(DPC)が実施した道路沿いの地域の大気監視は、10m未満の大きさの特定物質(PM-10)が極めて高濃度となっていることが最も重要な問題であることを示唆した。1996年の監視結果によると、PM-10の24時間濃度は7つの観測地点全てで基準を上回り、トラックがその主たる原因となっている。車両種別にみた汚染への相対寄与度の推計値を、図8に示した。

 道路交通は、一酸化炭素の高濃度の主たる原因でもある。ほとんどの地域では一酸化炭素の濃度は基準値を下回っているが、道路沿いの地域の濃度は、道路から奥まった地域に比べ極めて高い。PM-10と同じ地点で実施された一酸化炭素の濃度の監視では、一酸化炭素の1時間の平均濃度は全ての地点で基準値を下回っていた。しかし、8時間の平均濃度が基準を上回った場所が1ヶ所あった。

 

4.2.2 騒音

 1996年に実施した幹線道路沿い地域での騒音監視では、24時間等量騒音水準(Leq)は24の観測地点全てで基準値の70dB(A)を上回った。騒音の水準は70〜84dB(A)の間であった。日中および夜間の平均騒音水準(Ldn)も、米国環境保護局の基準である50dB(A)を上回った。騒音の主たる原因は、バイクとメンテナンスの悪いディーゼル車両である。

 

4.3 制度上の問題

 いくつかの制度上の問題が存在し、調整が行き届いたプロジェクトやプログラムの効率的な実施や、需要への適合や効率の改善を促す規制の行き届いた環境の確立を阻んでいる。

制度上の問題の主たるものは以下の通りである。

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5.将来の交通インフラ開発計画

 交通関連部局が提案中の交通インフラ開発のための主な計画は、以下に概略がまとめてある。しかし、このプロジェクトの中で実施が承認されているものは数件に過ぎない。

5.1 道路網

5.1.1 高速道路

 4つの部局が、全長750kmを超える高速道路・幹線道路建設プロジェクトをバンコク首都圏で計画している。しかしプロジェクトの中には、経済危機のため延期しなければならないものもある。その上プロジェクト間に重複があり、相互に競合しているため、再検討の必要がある。図9は、提案中のプロジェクトの実施場所を示したものである。

 

5.1.2 幹線道路および一般道路

 第8次国家開発計画(1997年から2001年)の期間中に、バンコク首都圏行政局は道路の新設・未完成の環状部分や超街区(交通を遮断した住宅・商業地区)の改善・道路の拡張を含む77の道路改善プロジェクトを実施する計画である。加えて公共事業省(PWD)はこの期間に、新しく7つの橋梁を建設する予定である。図10は道路改善プロジェクトを示している。

 

5.2 鉄道大量高速輸送

 大量高速輸送(MRT)総合基本計画では、およそ238kmの大型大量輸送機関を2011年までに、うち約170kmを2001年までに完成させるよう提言している。現在のところ、ホープウェル プロジェクトを含む約100kmが建設中である。一方で、全長20kmの地下鉄も2003年までに完成の予定で、全長23kmの高架型MRTも2000年には開業の予定である。しかしプロジェクトの進捗状況は、計画での提言より遙かに遅れている。プロジェクト実施の遅れや景気後退の結果、ネットワークの残りの部分の実施計画については、関係当局が再検討を行なっている。

 MRTプロジェクトの他に、OCMLTは全長200kmを超える総投資額5億米ドル(1997年の為替レート)のLRT輸送網を提案している。このシステムは、MRTの支線システムとして機能する予定である。

 

5.3 バス システム

 バス サービス改善のため、BMTAは1995年から1999年の期間に以下のプロジェクト施策を実施する計画である。

 上記プロジェクトに加え、近い将来、地域別価格設定、インテリジェント交通システム(ITS)など様々な交通管理施策が実施される計画である。

参考

  1. Rithika Suparat著『都市開発と交通が環境にもたらす影響についての国際比較分析−バンコク・東京・名古屋・ロンドン』博士号学位論文(名古屋大学、1994年)
  2. OCMLT発行『交通計画および政策に関する最終報告書』(1998年)
  3. OCMLT発行『第8次国家開発計画に基づいた交通開発総合基本計画』
  4. BMA発行『バンコク計画』(1996年)

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